「賃金が先か社会保障が先か」と問われたら、賃金が先と回答する理由



財務省が平成28年(2016年)9月1日に発表した「法人企業統計」によると、企業が得た利益を社内に貯めた「内部留保」が、金融・保険業を除く全産業で、過去最高の377兆8,689億円に達したそうです。

この内部留保は前年度と比較すると、6.6%(約23兆円)も増えており、また10年前と比較すると、2倍近く増えております。

この発表を受け政府関係者は、内部留保を貯めるより賃上げに資金を回して欲しいと、賃上げを要求しておりました。

賃上げが実施されないと、個人消費が回復せず、個人消費が回復しないと、景気は良くならないのですから、政府関係者が賃上げを要求する気持ちはよく理解できます。

いったんは収まった政府関係者の賃上げ要求ですが、春の恒例行事となっている「春闘」が近付くと共に、少しずつ再開されております。

これに対して経団連関係者は、個人消費が回復しないのは、社会保障に対する強い不安があるため、国民が稼いだお金を消費に回さずに、預貯金に回してしまうからだと、反論しておりました。

確かに将来に年金がもらえるか不安、また将来の医療費の負担が不安となれば、できるだけ消費を控えて、なるべく多く預貯金しておこうという気持ちになります。

政府関係者の主張も経団連関係者の主張も、よく理解できるのですが、個人的には社会保障の充実より、賃上げの方が先だと思うのです。

その理由として賃上げが実施され、国民の所得が増えると、政府が国民から徴収できる所得税は、自然に増えていきます。

また賃上げが実施され、個人消費が回復すると、政府が国民から徴収できる消費税は、自然に増えていきます。

このようにして税収が増えれば、政府は社会保障の充実に必要な財源を確保できるので、社会保障の充実より賃上げの方が先だと思うのです。

ところでねんきん定期便などを見るとわかるように、原則65歳から受給できる老齢厚生年金は、次のような計算式で算出されます。

・平均標準報酬額×給付乗率×厚生年金保険の被保険者であった月数

この中の「平均標準報酬額」とは大まかに表現すると、入社から定年退職までの間に会社から支給された、すべての月給と賞与の平均額を示しております。

そのため賃上げが実施されると、平均標準報酬額が増え、これが増えると老齢厚生年金の金額は、自然に増えていきます。

このようにして老齢厚生年金の金額が増えれば、政府が特に年金制度を改正しなくても、社会保障は自然に充実していくので、社会保障の充実より賃上げの方が先だと思うのです。

もし賃上げが実施されないと、将来に受給できる老齢厚生年金は増えていかないので、個人消費が回復しないという問題は、現役世代が年金受給者になる頃まで、続いていくのではないでしょうか?

こういった状態は安倍総理が掲げる「経済の好循環」の逆となる、「経済の悪循環」だと思うので、経団連関係者の思い切った決断を期待しております。
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古代中国の書物である「淮南子」(えなんじ)に書かれた、「人間万事塞翁が馬」(じんかんばんじさいおうがうま)という、有名な話があります。

簡単に話のあらすじを紹介すると、中国の北方の塞の近くに、占いが好きなおじいさんが住んでいたそうです。

ある日おじいさんが飼っていた馬が逃げ出したので、近所の人が励ましにいくと、「これが幸福を招くかもしれないよ」と言って、まったく落ち込んでおりませんでした。

するとおじいさんの予想した通り、数ヵ月後に逃げ出した馬が、駿馬(足の速い優れた馬)を連れて、おじいさんの家に戻ってきたのです。

これは良かったと、近所の人がお祝いにいくと、「これが不幸を招くかもしれないよ」と言って、まったく喜んでおりませんでした。

するとおじいさんの予想した通り、おじいさんの息子がその馬に乗って遊んでいた時に落馬し、骨折してしまったのです。

これは気の毒だと思い、近所の人が励ましにいくと、「これが幸福を招くかもしれないよ」と言って、まったく落ち込んでおりませんでした。

するとおじいさんの予想した通り、隣の国と戦争が始まり、多くの若者が命を落としましたが、おじいさんの息子はケガのため、兵役を免れたので、命を落とさずに済んだのです。

これが「人間万事塞翁が馬」のあらすじであり、この話のように幸福だと思っていた事が、不幸を招く場合があり、また逆に不幸だと思っていた事が、幸福を招く場合があるのです。

つまり最終的に何が幸福になり、何か不幸になるかは、予想が難しいので、安易に喜んだり、悲しんだりしてはいけないという事を、この話は教えているのです。

最近朝日新聞デジタルのある記事を読んでいたら、この「人間万事塞翁が馬」という話を思い出しました。

それはカロリー制限、やっぱり長寿に効果 論争に終止符かという記事であり、その内容は次のようになっております。

『カロリー制限はやはり長寿に効果がある、とする研究結果を米国の二つの研究チームがまとめ、17日付の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した。

両チームは1980年代後半からアカゲザルで実験を続け、効果をめぐって相反する結果を発表。両チームが共同で実験データを再解析し、「効果あり」で結論が一致したという。二つの研究チームは米国のウィスコンシン大学と国立加齢研究所。

いずれも、好きなだけ食べさせる集団と、それよりも摂取カロリー量を3割減らした集団で生存年数などを比較する実験をしているが、大学は2009年と14年に「効果あり」、研究所は12年に「効果はなかった」と発表していた。

今回、両チームで15年7月までの互いの実験を比べると、カロリー制限を始めた年齢が大学は大人の7~15歳なのに対し、研究所は1~23歳と幅広かった。

このため、研究所のデータについて、実験開始時の年齢を若年(1~14歳)と中高年(16~23歳)に分けて改めて解析すると、若年でカロリー制限を始めた場合は寿命が延びる効果はみられなかったが、中高年で始めた場合は効果がみられ、特にオスは平均寿命の推計が全体よりも9歳ほど長い約35歳だったという。

また、両チームの解剖データを調べたところ、開始年齢や性別にかかわらず、カロリー制限をしたグループのほうが、がんの発生率が15~20%ほど低かった。糖尿病や脳卒中など加齢に伴う病気も、より遅く発症していた。

東京都健康長寿医療センター研究所の石神昭人研究部長(老化制御)は「論争に一つの終止符が打たれた。約30年に及ぶカロリー制限の研究データは、人間にも置き換えることができそうだ」と話す』

以上のようになりますが、カロリー制限による長寿効果は、「人間にも置き換えることができそうだ」という点が、とても興味深いと思いました。

そうなると美味しいものを好きなだけ食べているお金持ちより、粗食をしている貧乏人の方が、健康的に長生きできるという話になります。

もちろんこの実験では、摂取カロリー量を3割減らしただけなので、極端な粗食は健康に良くないと思うのです。

最近は「一億総下流」や「下流老人」などといった、暗い言葉をよく見かけ、日本の先行きに不安を感じます。

ただ収入が低くなり、食費を削らざるを得ない状況が、生活習慣病の発症を予防し、健康的な長寿を招くとしたら、「人間万事塞翁が馬」ではないでしょうか?
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